東海大学医学部付属八王子病院外科  潜在性腫瘍細胞(ONCs)研究会編集

         





大腸がんの病期分類
 (進行度/ステージング)
 

がんがどれくらい進行しているのかという進行度を表す主なものに、ステージとデュークス分類があります。ステージと併せて、分類が比較的単純で生命予後と極めてよく関連するため、デュークス分類(Dukes:デュークス博士1930〜40年代に主論文発表)も知っておきましょう。ただしデュークス分類は、手術により切除・回収された組織標本から診断する、手術時のがんの病期分類であり、転移・再発群を選別するためのものではありません。


Stage I がん浸潤の深さが大腸壁内(固有筋層まで)に限局している。  
Stage II がん浸潤の深さが大腸壁内を貫通するが、リンパ節転移を認めない。  
Stage III がん浸潤の深さが大腸壁内を貫通し、さらにリンパ節転移を認める。  
Stage IV がんが肝臓・肺など他の臓器(遠隔臓器)へ転移している。




 
Stage I   特に早期SMがん 
 

 SMがん 
 
MP (固有筋層)がん
進行がん


がんの転移・再発

がんは、根治治癒切除手術を受けたとしても再発して生命を脅かすことがあるから恐いといわれます。がんの手術は受けたが、まず再発しないであろうと術後予知することが可能になれば患者さんの精神的負担はどれほど軽減されるでしょう。


わが国の原発性大腸がんにおいて、リンパ節転移を伴わないステージII根治治癒切除症例では、5年生存率は約80〜85%(結腸; 84.5±2.8%, 直腸; 79.8±4.0%)で、約15〜20%は、肝臓や肺などへの遠隔転移・再発を生じます。またリンパ節転移を伴うステージIII根治治癒切除症例では、5年生存率は約60〜70%(結腸; 74.0±3.5%, 直腸; 64.7±4.3%)で、再発する可能性は約30〜40%と、ステージIIの約2倍まで確立があがります。さらに、これら再発症例の詳細を検討すると、手術後2年以内に再発を生じる可能性が約70%で、3年以内になると約80%以上に達するといわれています。 つまり大腸がんは、手術後2〜3年で再発する場合がほとんどなのです。また、これら転移・再発様式については、約60〜70%が肝転移、次いで約20〜30%が肺転移であり、その他に後腹膜腔(お腹の後ろ側・背中側)へのリンパ節再発などがあげられます。また直腸がんでは、この他に骨盤腔内に局所再発を生じる場合が約15〜20%と比較的高い頻度で認められます。


 
 
多発する肝転移巣の腹部CT画像
 
肝臓の左右両葉に比較的小さい転移巣(黒く見える丸い部位)が数個認められます 
 
 
大腸がん術後の多発肺転移CT画像 
 
左右の両肺野に多発する結節陰影(矢印)を認めます
 
 
 このため手術後2〜3年は、特に肝臓・肺・骨盤腔に関する諸検査を行い、再発の有無をチェックします。主に採血・超音波・CTを3〜4ヶ月ごとに組み合わせて検査精度を高め、早期発見に努めています。たとえ肝臓や肺などの遠隔転移巣でも、腫瘍径が10〜20mmぐらいまでと比較的小さく、かつおよそ1〜2個までの少ない病巣であれば切除することにより長期生存の可能性もあるからです。
 しかし、がんが遠隔臓器に転移・再発した部位と場所は、手術的切除の最も重要な因子として深く関与しますので、充分に主治医と相談してください。一般的に肝臓も肺も、表面にできた転移巣の方が、切除が容易で、患者さんへの手術侵襲や負担も少なく安全であるといえますが、手術以外の他の方法を含め、セカンドオピニオン(他病院・施設の医師の意見)を求めることも良い方法の1つでしょう。
 
 
 



 
八王子病院のステージII 再発群の再発様式と治療成績
(2002年4月〜2013年12月手術)
 
 
再発様式 
縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は手術後の年数を表し
グラフ上には、各ステージ別5年全生存率を記載。nは症例数

 
八王子病院の大腸がんステージII再発群45症例の再発部位別全生存率は、肺:61.1%、肝臓:35.3%、骨盤内局所/リンパ節他:21.4%でした。当院では、肺再発でも積極的に切除を行い、約60%以上の成績となっています。 
 

 

八王子病院のステージIII 再発群の再発様式と治療成績 
(2002年4月〜2013年12月手術) 
 
 
 再発様式
 
  縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は手術後の年数を表し
グラフ上には、各ステージ別5年全生存率を記載。nは症例数。

 
八王子病院の大腸がんステージIII再発群85症例の再発部位別全生存率は、肺:55.2%、骨盤内局所/リンパ節他:28.0%、肝臓:27.2%でした。当院では、肺再発でも積極的に切除を行い、約55%以上の成績となっています。 
 

 


八王子病院のステージII・III 肝再発群の治療成績
(2002年4月〜2013年12月手術)
 
 
肝再発
 
縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は手術後の年数を表し
グラフ上には、各ステージ別5年全生存率を記載。nは症例数。
 
八王子病院の大腸がんステージII・III肝再発群45症例の全生存率は、ステージII:35.3%、ステージIII:27.2%でした。大腸がんに最も多い肝再発群では、ステージII 症例でもIII症例でも、まだまだ険しい現状です。 
 



 
八王子病院のステージII・III 肺再発群の治療成績
(2002年4月〜2013年12月手術)
 
 
肺再発 
 
縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は手術後の年数を表し
グラフ上には、各ステージ別5年全生存率を記載。nは症例数。
 
八王子病院の大腸がんステージII・III肺再発群35症例の全生存率は、ステージII:61.1%、ステージIII:55.2%でした。当院では、肺再発でも積極的に切除を行い、約55%以上の成績となっています。
 



  八王子病院のステージII・III 肝/肺再発群の治療成績
(2002年4月〜2013年12月手術)
 
 
肝/肺再発 
 
縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は手術後の年数を表し
グラフ上には、各ステージ別5年全生存率を記載。nは症例数。

 
八王子病院の大腸がんステージII・III肝/肺再発群 80症例の全生存率は、肺:57.4%、肝:30.6%でした。
 



  八王子病院の大腸癌ステージII・III 肺再発群の治療成績(肺切除有無)
(2002年4月〜2013年12月手術)
 
 
肺再発 
 
縦軸は生存している可能性(生存率)、横軸は大腸(原発巣)切除後の年数を表し
グラフ上には、肺(転移巣)切除有無別5年全生存率を記載。nは症例数。

 
大腸がん肺再発群 35症例について、肺転移巣切除の有無別で比較したグラフです。全生存率は、肺切除有り:79.2%、肺切除なし:25.0%でした。肺再発をしても、切除可能な症例では、長期生存が期待されます。
 

 
 
ステージIV(前期)

病巣が切除可能であれば、切除後に化学療法や放射線治療を行います。また切除不能の場合でも、腫瘍静止療法(Tumor(テューモア) dormancy(ドーマンシー) therapy(セラピー))を行います。がんとの共存共生を受け入れて、化学療法や放射線治療を行いながら、病巣を消失あるいは小さくするのではなく、今以上に大きくさせない(静止させる)療法です。

 
ステージIV(後期)

当科ではご本人へ病勢・病態の説明を行うことを原則としております(未告知の場合は要相談)。まずはご家族内で十分相談された上で、方向性の統一、倫理観、価値観の共有等が重要となります。非常に難しいところではありますが、がんとの共存共生を受け入れ、少しでも前向きに、患者さん自身ができるだけ満足のいく生活を送れるように、またご家族にも明るく掲げられる目標を一緒に模索していきましょう。それが私共の提示できるホスピタリィティであると考えています。

 

End-of-life(EOL)ケア外来について

悪性疾患の治療後、または治療適応がないと診断され、終末期ケアや緩和ケアが必要と考えられる患者さんに対し、End-of-life(EOL)ケアとして、専門外来を行います(毎週月曜日:向井外来)。
 この外来では、主に悪性疾患ステージW後期の患者さんを対象とし、どこまで、どのような治療や処置を希望するのか、あるいは治療を希望しないのか等について、ご本人、ご家族の皆様と相談し、できるだけ満足のいく生活を送れるように、お手伝いをさせていただきます。基本的には抗がん剤治療後、放射線治療後、あるいはこれらの治療適応にならなかった患者さんを対象としているため、対症療法が主体となります。しかし、延命や緊急蘇生にどう関わっていくのかをご納得いくまで相談し、当院医療スタッフチームと共に総合判断していきます。ただし、容体急変時や危篤病態時には、積極的な緊急蘇生延命処置を行わない方針です(※DNAR参照)。
手術後の長期間の入院経過症例、炎症性や化膿性疾患の慢性期入院管理等についても広くご相談に対応させていただきます。また、ご本人やご家族の人生観を尊重した治療法を検討させていただき、Quality-of-life(QOL)の向上を目指します。
なお他施設で治療されていた方は、円滑な診療を行うために紹介状をご持参ください。


※DNAR(日本救急医療医学会答申より一部抜粋)

患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと。ただし,患者ないし代理者へのinformed consentと社会的な患者の医療拒否権の保障が前提となる。欧米では実施のためのガイドラインも公表されている。1995年日本救急医学会救命救急法検討委員会から「DNRとは尊厳死の概念に相通じるもので,癌の末期,老衰,救命の可能性がない患者などで,本人または家族の希望で心肺蘇生法(CPR)をおこなわないこと」,「これに基づいて医師が指示する場合をDNR指示(do not resuscitation order)という」との定義が示されている。しかし,わが国の実情はいまだ患者の医療拒否権について明確な社会合意が形成されたとはいい難く,またDNR実施のガイドラインも公的な発表はなされていない。なおAHA Guideline 2000では,DNRが蘇生する可能性が高いのに蘇生治療は施行しないとの印象を持たれ易いとの考えから,attemptを加え,蘇生に成功することがそう多くない中で蘇生のための処置を試みない用語としてDNAR(do not attempt resuscitation)が使用されている。従ってDNRは本来,癌末期や慢性疾患の末期状態,さらには植物状態や脳死状態などの医療施設入院中に発生する概念である。しかしながら,このように当初は入院中のとくにICU領域での概念であったDNRは,1992年JAMAに示された“medical futility”の考え方やDNRの意味をより明確に示すDNAR(do not attempt resuscitation)の考え方の提唱などにより,救急処置室さらには医師が存在していない救急現場までにおいても論じられるようになった。


 
参考文献
 
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Mukai M, et al. Long-term survival after immunochemotherapy in patient of juvenile colon cancer with peritoneal dissemination: a case report. Oncol Rep 2000; 7: 1343-1347.

国立長寿医療研究センター,在宅連携医療部,End-Of-Life Care Team(EOLチーム)の緩和ケアホームページ,2015.

千葉大学大学院看護学研究科,エンド・オブ・ライフケア看護学ホームページ,2015.

日本救急医学会・医学用語解説集.2015.

九州大学病院,終末期/末期状態における延命治療中止に関わるガイドライン(平成25年7月17日)

あしたか医院(東京都大田区),心肺蘇生を行わないこと(DNAR)のガイドラインと心肺蘇生を行わないこと(DNAR)の説明・同意書(2013年7月)

京都民医連中央病院倫理委員会,DNARガイドライン(平成21年7月1日)

埼玉協同病院.生命倫理に関わる検討,1-1 DNARガイドライン作成についての答申(2005年度,第6回答申より)
 
 
 
 




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