HALSとは? |
|
@HALSの歴史と変遷
1990年代に入って急速な鏡視下手術の導入が行われ、世界の手術術式に大きなインパクトを与えた。1990年代前半には胆嚢摘出術が、さらには良性疾患の脾臓摘出術、早期の胃癌や大腸癌手術などが行われるようになった。
より難度の高い手術を安全に施行するために、手術機器の開発や手技の定型化などの多くの努力がなされてきた。鏡視下手術は、その拡大視効果からこれまで十分な視野が
得られなかった部分を拡大、さらには並行視できる利点を有している。しかしながら、手を挿入しない手術であるがために従来外科医が用いてきた触覚が使用できないこと、eye-hand
coordinationに熟練を要することなどが問題となった。そこで考案されたのが気腹圧を保ったまま術者の片手を挿入して鏡視下手術を行うHALS(hand-assisted
laparoscopic surgery)である。HALSでは、直視下手術の触覚と鏡視下手術の良好な視野をともに利用することができる(表1)。
1995年に初めてのHALSを用いた脾臓摘出術が行われた。当時用いられた Pneumo Sleeveという製品は手袋を二重に装着して袋状の袖を有する独創的な製品であった。その後、2000年までの聞に消化管手術だけでなく、肝臓、膵臓、腎臓などの実質や婦人科疾患など多くの領域で急速に普及した(表2)。欧米の報告によれば、現在でも大腸の鏡視下手術の約4割がHALSで行われ、主に肥満例の大腸切除や炎症性腸疾患などで用いられている。
本邦では、鏡視下手術導入初期の方法として、あるいは、開腹移行の前段階の手技として用いられることが多かった。鏡視下手術手技の定型化・標準化が進み、多くの手術が鏡視下で安全に施行することが可能となり、その安全性を担保する意味で日本内視鏡外科学会が技術認定制度を制定したのが2005年である。現在のところ、腹部手術ではHALSを用いた手術は申請の対象外となっている。
|
|
表1 HALS の特徴
|
視覚
|
触覚
|
eye-hand coordination
|
LAS
|
間接
|
なし
|
熟練を要す
|
HALS
|
間接
|
あり
|
容易
|
開腹手術
|
直接
|
あり
|
容易
|
LAS :laparo-assisted surgery
HALS:hand-assisted laparoscopic surgery
|
|
表2 HALSの歴史
年
|
報告者・実施された手術など
|
1995
1996
1997
1997
1998
1999
2000
2000
2000
2000
2001
2002
2005
2010
|
Kusminsky RE 脾摘術
Bemelman WA 結腸切除
Watson Dl 胃形成術
Nakada SY 腎摘術
Klinger PJ 膵尾部切除
Pelosi MA 付属器切除
Pelosi MA 婦人科悪性腫瘍
Fong Y 肝切除
Yoshida T 食道癌の胃管作製
Kolvenbach R 腹部大動脈手術
Tanimura S 幽門側胃切除
Pietrabissa A 直腸癌の低位前方切除
日本内視鏡外科学会技術認定制度開始
HALS研究会発足
|
|
|
|
|
AHALSの利点
HALSでは術者の手を用いるため、multi-port laparoscopic surgeryのように多くのポートを必要としない、術野の展開が用手的に行われるため効率的であり、煩雑な操作を必要としない(表3)。また、術式にもよるが、カメラ助手と術者の2名、あるいは助手を加えて3名の少人数で施行可能である。そのため、手技の定型化が容易となる。
触覚があるため、カメラの視野の裏側に手を入れている場合には視野外の安全が術者の手で確認できる。そのため、癒着や肥満などの難易度の高い手術でも容易に施行可能となる。また、不慮の出血などのアクシデントに対しても圧迫などの迅速な対応が可能な点は大きな利点である。
これらの結果として、multi-port laparoscopic colectomyと比較して手術時聞は短縮され、開腹へのconversion率は低いことが確認された。また、術後の合併症、疼痛、QOL、腸管蠕動の回復、リンパ節郭清個数、コストでは差がない。また、laparoscopic
anterior resectionに比べてHALSを用いたanterior resectionではlearning curveの上昇が速い。
|
|
BHALSの今後
鏡視下手術は、多くの領域でその有用性が認識され、日々新たなる挑戦が行われている。より質の高い安全な治療や手術を提供するのは医療人の務めである。その意味で、従来高侵襲であった治療をいかに低侵襲で行えるようにするか、また、従来は高難度であった治療をいかに中〜低難度である程度熟練した医師が施行可能にするかが課題である。
従来は、鏡視下手術導入時あるいは開腹移行しないためにHALSを用いることが多いとされてきた。しかしながら、胃切除や結腸切除などの鏡視下手術が標準的に施行可能となってきている現代では、従来のHALSの役目は少なくなってきたと考えられる。一方で、肥満症例に対する手術や膿瘍を合併する炎症性腸疾患の手術などのcomplex
colectomyや肝区域切除など従来鏡視下では行われていなかった複雑な手術も鏡視下手術で行われつつある。近年では、ロボット手術も行われ始め、HALSの適応の概念は時代とともに変わりつつある。
HALSは、安全に質の高い治療を提供するための一つのオプションである(表4)。既成概念にとらわれる必要はなく、デバイスの発達などにより今後も大きく変貌を遂げる可能性を秘めている。
|
|
表3 HALSの利点
1. 煩雑な操作が少なく、使用器具が少ないため、手術の
定型化が容易である。
2. 少人数で施行可能である。
3. 視野の裏側の安全性が触覚で確認できる。
4. 難易度の高い症例でも適応できる。
5. 思わぬアクシデン卜にも迅速に対処可能である。
6. 開腹へのconversion率が低い。
7. 手術時間の短縮。
8. learning curveの上昇が速い。
|
|
|
表4 HALSの適応の概念
|
従来 |
|
腹腔鏡下大腸切除の導入
開腹移行防止のrescue surgery
|
|
|
|
|
|
|
腹腔鏡下手術の
標準化 |
|
complex colectomyの概念
いかに安全に腹腔鏡下手術を遂行するか
HALSはオプションの一つ
|
|
|
|
|
板橋道朗著
HALS-用手補助腹腔鏡下手術の実際-(南江堂)2014年より一部抜粋・改編し転載 |
|
|
|
HALS器具の変遷 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|